県政オンブズマン地方相談員制度について



『暇つぶしに考えたこと』

  • 制度のねらい

    オンブズマン制度によって、達成しようとする機能は、2つ考えられよう。

    1つは個々の住民からの行政に対する苦情を処理する機能であり、もう1つは個々人の苦情を離れて行政の運用を適正化すると同時に制度上の欠陥を正そうとする機能である。

    • 1、住民の苦情を処理する。

      宮城県が採用する県政オンブズマンは、個人の苦情に限っていることから、(§1、§4)前者を念頭に置いたものであることが明らかである。県政オンブズマンの職務は県民が自己の利害に関して県政に苦情を申し立てたときに始まる。(§13)行政により県民の法的権利を侵害したり、社会生活上の利益を侵害したりしたときにその救済のために、作動する制度である。そしてそれは、簡易かつ迅速に作動するところに他の制度と違った存在意義を有することになる。

    • 2、行政の運用を監視する。

      しかし先に述べた後者の機能を全く有しないわけではない。個々の苦情処理という個別的事件の処理を通して、結果的にはそのような苦情が発生しないような行政が行われるように間接的に監視する機能が認められる。(§1、§4)行政は、苦情の申し立てにより自らの公正と信用とを疑われ、地域住民からの非難を受けることをさけようとし、結果的に適正且つ公正な行政の運用が期待されることになる。

      行政の運用を監視するものは、議会制度や監査委員制度もあるが、これらはマクロ的な見方による監視制度であるのに対し、オンブズマン制度は県民の日常生活に関する行政の運用という現実的かつ個別的視点からの監視であるといえよう。

    • 3、制度そのものが悪いときは改善させる。

      宮城県が採用する県政オンブズマンは、個々の苦情を処理し、もって不公正な裁量権の行使を避けようとするばかりでなく、制度そのものに欠陥ないし改善の余地があるときは、それを提言し勧告することとして、(§4、§17)行政の仕組みそのものを個々人の権利ないし利益を侵害しないように変えることまでも意図されている制度である。当初は良い制度であっても時代とともにそぐわなくなることは容易に推測できるし、当初には考えも及ばなかった事例が生じ、その処理をも含め、制度を再検討する必要が生じることもあり得ることである。一旦できあがった制度を見直すことは、どうしても遅れがちになり、ややもすると不合理な制度のまま法令がそうなっているからとして、県民無視の行政を押しつけがちになってしまう。

  • 類似の制度にはどんなものがあるか

    • 1、行政訴訟制度

    • 2、行政不服審査制度

    • 3、行政手続制度

    • 4、県民相談制度

  • 県民相談制度の検討

    行政訴訟制度、行政不服審査制度や行政手続制度とは異なり、オンブズマン制度は地方自治体による自主的な制度であり、県民相談制度と似ている点がある。何故に県民相談制度とは別にオンブズマン制度が必要であるのか、それには県民相談制度の特徴を検証してみる必要が有ろう。

    • 1、行政の内部処理の性格

      県民相談制度は総務部広報課の担当として運営され、県政について専門的知識を有する県職員のOBが採用される例となっており、公正性や中立性に対し不安感を抱かせる制度となっている。また、OBとはいえ県職であったものとして感情的にも行政の肩を持ちがちで、身内の調査となり自らの不公正を暴くことになるのでやりにくくく、熱意を持った相談及び解決には及び腰とならざるを得ない。

    • 2、調査権が制約される。

      現在の行政は悪名高い縦割り行政となっているが、一部局として他の管轄業務には口を出しにくく、その点から調査権も限られることになる。予算上も相談室の維持に要する程度しか認められていない。

    • 3、個別的救済制度にとどまっている。

      県民の相談を単に受け付けてアドバイスするだけであって、それだけで完結してしまい。制度の見直しなどには至らない。

    • 4、県民相談制度の意義はなにか

      以上のような欠点を持つにもか変わらず、県民相談制度が機能しているのはその簡便性と迅速性、更に無償性に有ろう。とりあえず県民相談室に行けば専門家のアドバイスを得られる。その点から専門的知識の欠如のため困っている相談事には威力を発揮する制度である。しかし内部処理性のために、厳しい苦情事案にはお手上げとなる。

  • 苦情の解決について実効はどうか

    宮城県が採用するオンブズマン制度では、県民相談制度の欠点を補いつつ、個々の苦情解決とその苦情が起因するところの行政の運用並びに制度的欠陥を正すために、制度の実効を図って数点の権限をオンブズマンに与えているが、その内実は不完全と思える。
    • 1、調査権

      苦情を適正に処理するためにはその事情を正確に把握することが必要であるから調査権が認められるのは当然である。
        調査の方法としては(§15)
      • 1,説明を求める。
      • 2、事案に関する文書記録などの資料を閲覧したり提出を求めることができる。
      • 3、必要なら実地調査もできる。
      の3点が認められる。

      これらの調査に対して、たとえばプライバシーの保護などの理由を付けて調査拒否をすることが考えられる。この拒否された場合については特に規定はない。第6条に「県の機関は、県政オンブズマンの行う職務の遂行に関し、協力するものとする」と定められているだけである。強制力に欠ける点で不完全であるといえよう。

    • 2、提言勧告権

      苦情の発生が行政の運用に不公正な点があったときや更には制度上の欠陥が有ると認められるときは、県政オンブズマンは県の機関に対し、是正の措置を講ずるように勧告し、また制度の改善を求める意見を表明することができるとされている。(§17)これらの提言勧告に対しては県の機関は尊重しなければならない(§18)とされ、実効を図っている。

      是正の勧告に対しては県政オンブズマンの求めにより、60日以内にその対応を報告するものとされているので、関係機関は放置しておけないことになる。しかし制度の改善意見に対しては別に報告等は求められていないようである。

      官僚の言い訳の巧妙さは国会答弁の例をみても解るとおり、今更多言を要しない。抽象的表現で報告されるようであっては実効はないであろう。当初の(10月28日の)説明によると、オンブズマンからの勧告や意見表明に対し行政側は従う義務はないとされているのであるから、始めから骨抜きにされているようである。

    • 3、公表権

      県政オンブズマンは、前記の提言勧告の内容及び関係機関からの報告を公表し、また知事に報告することとされ、知事は議会に報告することになっており、(§20)これらの公表制度が究極的な実効担保機能となっている。しかし公表の中身は、個人情報の保護を図ってされるために(§20W)多分に抽象的なものとならざるを得なく、実効機能が薄められてしまうのはやむを得ないであろうか。

    • 4、事務局体制

      県政オンブズマンがこれらの権限を認められていても、それを補佐する人的組織がなくては無意味である。そこで業務を補助するものとして、総務部広報課に調査員が置かれる。(§22U)事務局体制は広報課職員2名と非常勤職員1名の3名体制とされ、苦情に関する調査には事務局職員が当たるとされているだけで、その詳細は私には不明である。オンブズマン制度を左右するものとして重要な問題である。調査員がオンブスマンの真の手足として活動してくれないと、制度は死んで仕舞うであろう。県職員が派遣される形となるであろうから気にかかるところである。

      更に地方の利便を図って地方相談員が置かれる。(§21)地方相談員は遠隔地方の県民の利便のため、仙台県庁にわざわざ出向かなくても良いように計らっているだけであるから、単なる苦情取次役に過ぎない。しかし、県政オンブズマンにとっても地方の事情に詳しい相談員の意見を聞くことで事案の要点に迫りやすくなる面では苦情解決の実効に寄与していると言えようか。